大阪市北区にある訪日外国人客向けのホテル「ノク大阪」。11月上旬の昼前、ポロシャツ姿の女性5人が、客室清掃やベッドメイクに追われていた。布団のカバーをとりかえたり、歯ブラシなどの備品を定位置にそろえたり。1室あたり約10分。休む間もなく客室を移り、宿泊者を迎える午後3時までに終えなければならない。作業する5人はネパールからやって来た。
そのうちの一人は「仕事を始めたばかり。難しい言葉はわからない」と日本語もままならない。2年目の女性は、母国で教師をしていたという。日本人の上司からは朝礼で「宿泊客を見かけたら笑顔でお辞儀を」と指導されている。
国内各地は急増した訪日客を求め、ホテルなどの建設ラッシュに沸いている。不動産サービス大手CBREの1月調査では、東京23区や大阪、京都など主要8都市の2020年末時点のホテル客室数は約33万室。16年末から32%も増える。開発計画の発表はいまも各地で続く。みずほ総合研究所は、ホテルで働く従業員が30年には13万人程度不足するおそれがあると試算する。なかでも、客室清掃やベッドメイクは自動化がしにくく、人手が頼みだ。
ノク大阪で清掃作業を担うエコノハキャリア(大阪市)は、80~90人いる従業員のうち、約7割がネパールやベトナムから来た海外留学生などだ。エコノハの細川悠太さん(25)は「従業員の知人が頼り。大阪市内の日本語学校も回って働ける人を探している」。
経済が上向いて人材の奪い合いが激しくなるなか、建設業に似た産業構造を持ち、規模の小さい清掃業者は、他業種を上回る条件は提示しにくい。今秋までホテルで同様の仕事をしていたダスキンの担当者も「季節や曜日で仕事量が変わり、調整が難しい。人手が足りない時は派遣を入れて時間に間に合わせたが、派遣も見つかりづらくなった」と話す。多くの訪日客をもてなすための裏方もまた、「外国人頼み」になっている。
「ホテル建設が先行しすぎて人手が追いつかない」。大阪府内の観光専門学校の幹部も指摘する。定員数を増やして観光業界で働く人材を育てたいが、休みも不定期な業界をめざす学生は、簡単には増えそうもないと映る。
このためアパグループ(東京)は、アパホテルの全スタッフが客室清掃ができるように研修し、急場の対応ができるようにしている。ベッド下の「脚」を高くして掃除をしやすくし、館内説明はテレビ画面で案内するなどして備品を減らす改善に努める。
大阪や京都などで計5棟の訪日客対応のホテルを営むザイマックスグループ(東京)は来春、インドネシアから技能実習生の女性20人を受け入れる。国がベッドメイクを実習生の作業の対象に認めたためだ。ザイマックス関西の田治剛有マネジャー(35)は「人手不足が一層、深刻になる事態に備える」。留学生たちは日本語が上達すると、接客など言葉やコミュニケーションを生かせる仕事を求めるようになりやすい。
8日に成立した改正出入国管理法(入管法)が想定している受け入れ拡大の対象14業種には、ビルクリーニング業や宿泊業が含まれた。ただ、外国人労働者や技能実習生をめぐっては、長時間労働や低賃金などの問題が絶えない。厚生労働省のまとめでは、17年には実習生が働く事業場の4226カ所で何らかの労働法令違反があったという。急激な社会の変化があるたびに、雇用面では外国人にしわ寄せが及んだ。アジアの周辺国の所得水準が上がるなか、必ずしも日本が働く先として魅力があるとも言えなくなった。働く環境をいかに整えて労働者を迎え入れるかが、問われている。(久保田侑暉、中島嘉克、伊沢友之)
https://digital.asahi.com/articles/ASLDD6R88LDDPLFA013.html
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