都会育ちの子どもたちが地方を訪れ、さまざまな自然体験をする教育旅行が注目度を増している。五感を刺激して子どもたちの「生きる力」を育む場として農山漁村を志向する小中学校は年々増加傾向にある。観光振興を「地方創生」につなげようとする鳥取県は受け皿づくりに本腰を入れ始め、移動距離や豊かな自然、災害リスクの少なさなどを背景に関西圏の学校も鳥取へ目を向けつつある。教育旅行をめぐる都市と地方のニーズや課題を探る。
地元住民らのアドバイスを受けツリーイング体験をする子どもたち=2014年6月、倉吉市関金町(倉吉市体験型教育旅行誘致協議会提供)
大阪から車で2時間半の距離にある鳥取県。関西から教育旅行を受け入れている県内の先進地の一つが倉吉市関金町だ。
■住民意識も変化
自然体験プログラムを提供する地元団体などでつくる「倉吉市体験型教育旅行誘致協議会」(大江博文会長)を中心に受け入れ態勢を整え、県外からの教育旅行第1号として2011年、大阪府箕面市の聖母被昇天(ひしょうてん)学院小の5年生44人を受け入れた。
その後、県外から訪れる小中高校は増加し、12年度は5校約360人、13年度は7校約750人、14年度は4校約320人だった。
地元の大人が指導役となり、子どもたちは農産物の収穫や渓流での魚のつかみどり、大山池でのカヌー、ロープ1本で木登りするツリーイングなどの体験プログラムを楽しむ。
同協議会コーディネーターの楠本博文さん(59)は「地元では普通のことでも、都会の子どもたちにとってはおもしろい。伸び伸びと体を動かせない都会での日々から解放されている」と話し、豊かな自然の中で活動する子どもたちの姿に目を細める。
当初は戸惑いながら民泊を受け入れた住民たちだが、「関金は高齢者が多く、子どもとの交流を通じて喜びを感じてくれるようになった」と大江会長。地域を盛り上げていく取り組みに住民意識も変わった。
■民泊の増加を
今後も増加が見込まれる教育旅行だが、宿泊場所の確保が大きな課題となっている。
関金地域には大規模な宿泊施設が少なく、民泊の受け入れも30軒と不足気味。近隣自治体の宿泊施設を利用するケースもあるが、地元への経済効果を高めるため楠本さんは「まずは民泊を50軒に増やしたい」と意気込む。
同様の課題は、教育旅行の受け入れに前向きな鳥取市佐治町にも横たわる。
佐治町では、地域づくり団体「五しの里さじ地域協議会」(前田正人会長)を中心に受け入れ態勢を整え、「都会では体験できない“不便さ”を学んでもらうことで“生きる力”を養う」を主眼に40余りの自然体験メニューを用意。まだ県外からの受け入れ実績はないが、09年から「ふるさと体験活動」として市内の小学校が集団宿泊を行っている。
同協議会事務局を担う第三セクター「さじ弐拾壱」の社員で、自然体験活動指導者の谷上雄亮さん(29)は「教育旅行が増えれば、地域は活性化して地元の資源も磨かれる」と話す。既に近畿の修学旅行検討委や校長会が地域を視察しており、「遠くない時期に県外の小中学校も訪れる」と期待する。
ただ民泊は25軒ほどしかなく、初夏から秋までは市内20の小学校の対応で手いっぱい。新規の教育旅行があっても「体験プログラムは充実しているが、佐治町内での宿泊には限界がある」と課題を挙げ、民泊に協力してもらえる住民のネットワークづくりを急ぐ。
教育旅行 修学旅行や研修旅行など学校教育の一環として行われる旅行の総称。近年は農山漁村や企業などを訪れ、体験活動を通じて子どもたちの「生きる力」を育むことを目的に実施する小中学校が増えている。
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