ワークライフバランス向上やBCP対策を目的に、従来のオフィス中心の働き方から新たな働き方へ変化する企業が増えている。社員の半数以上がリモートワークで成功を収めている企業に、働き方改革の極意を聞いた。
新しい働き方を社内外で積極的に推進するダンクソフト
ダンクソフトは、Webサイトの制作・構築、Microsoft製品を活用したSIビジネスなどを手掛けるIT企業だ。Webサイト制作に関しては、名だたる大手企業をクライアントとして持ち、またMicrosoft製品を使ったSIでは、特に中小企業向けの先進的なソリューションを独自に打ち出していることが高く評価され、日本マイクロソフトのパートナーアワードを受賞している。
そんな同社は、ワークスタイル革新に積極的に取り組む企業としても知られている。社員のうち、都心の本社オフィスに勤務するのは半分弱。それ以外の社員は、徳島県や栃木県に設置したサテライトオフィス、あるいは自宅で業務を遂行している。また、本社勤務の社員であっても自宅やリモートオフィスで業務をすることも多いという。
この経験を生かし、現在は「新しい働き方インテグレーター」というサービスで、自社におけるワークスタイル変革の成果やノウハウをクライアント企業に提供している。ダンクソフトが、初めて新しい働き方を取り入れ始めたのは、2005年にある社員が病気で出勤できなくなったことがきっかけだったという。ダンクソフト 経営企画部/スマートオフィス・WLB推進チーム エグゼクティブマネージャー 板林淳哉氏は、当時を次のように振り返る。
「何とかその社員が、自宅療養を続けながら仕事ができないものか。現場でいろいろ話し合いながら、在宅勤務の仕組みや制度を作り上げました。そこでリモートワークの下地ができたのですが、大きな転換点になったのが2011年3月の東日本大震災でした。震災直後、計画停電などの影響で業務継続が危ぶまれた経験をしたことから、BCP(事業継続計画)のために都心以外にもサテライトオフィスを設置する検討を始めました」
さまざまな候補地を検討する中で、有力候補として浮上したのが徳島県だった。徳島県は、高速ブロードバンド環境が県内のすみずみにまで張り巡らされた「ネット先進地域」として全国的に知られている。また四国地域は地震が少なく、電力会社の管轄も異なることから、BCP拠点としての立地条件に優れていた。
早速、同年5月に現地を視察し、県内の複数の候補地の中から、山中の自然豊かな集落である神山町に候補地を絞った。さらに、同年9月と11月の2回にわたり、実際にダンクソフトの社員が神山町の古民家に滞在してサテライトオフィスの実証実験を行った。その結果を受け、同社は正式に徳島にサテライトオフィスを開設することを決めた。
社員の半数以上がリモートオフィスや自宅で勤務
こうした同社の取り組みを推進する上では、経営トップの理解が不可欠だったという。
「弊社は『時間は人生のために』という経営理念を掲げています。社員は仕事だけでなく余暇の時間も大事にして、そこで得たものをまた仕事に還元できれば、さらに価値の高い仕事が生まれる。そんなサイクルを回していくことを理想にしています。経営トップがそうした理念を持ち、ワークライフバランス向上の取り組みを率先して進めているからこそ、こうした施策を実現することができたのだと思います」(板林氏)
徳島のサテライトオフィスも、当初は東京オフィスのメンバーが合宿形式で滞在する形の運用が中心だったが、2012年に現地採用のエンジニアが常駐するようになり、現在では常駐メンバーは3人にまで増えている。その第1号であり、開発チームのマネジャーを務める竹内祐介氏は、ダンクソフトに入社したいきさつを次のように振り返る。
「もともとは、徳島の会社に10年ほど勤めていたのですが、東京転勤を命じられたと同時に第一子が誕生し、どうしても地元に残って家族とともに子育てがしたいと考えていました。そんな折、ダンクソフトのことを知り『ぜひこの会社で働きたい』と思ったのですが、東京オフィスでの勤務は難しい。そこで社長に『徳島オフィスを作ってくれませんか?』とお願いしたところ、快諾していただきました」
こうして2012年から、徳島のサテライトオフィスは正式に常設の拠点として運用されるようになった。とはいえ当初は、慣れないリモートワークに苦労する場面も少なくなかったという。
「開発チームの一員として加わったのですが、他のメンバーは全員東京にいる中、1人だけ徳島という離れた場所にずっといるため、どうコミュニケーションをとればいいのか、当初はかなり戸惑いがありました。しかし、リモートワークのメンバーがいる状況がだんだん当たり前になってくると、自然とリモートワーカーを意識したコミュニケーションを皆が心掛けるようになり、業務の効率も上がっていきました」(竹内氏)
竹内氏の入社を機にリモートワーク環境が急速に整備され、同社における新しい働き方への取り組みも一気に加速することになった。現在同社では、徳島の他に栃木県宇都宮市にもリモートオフィスを構えている。ここで働く遠山和夫J.氏も、同社の新しい働き方への取り組みに共感してダンクソフトに加わったエンジニアの1人だ。
「もともとは宇都宮の会社に勤めていたのですが、徳島でのダンクソフトの取り組みを知り、ぜひこの会社で働いてみたいと思いました。しかし、家族の都合でどうしても宇都宮からは離れられない。そこで社長に宇都宮オフィスの設置をお願いしてみたところ、了承していただけました。その後のリモートワーク体制の整備は、徳島オフィスの前例があったので比較的スムーズに運びました」
2014年7月にダンクソフトに入社した遠山氏は、現在は宇都宮のサテライトオフィスを拠点に働いている。また並行して、環境面だけでなく在宅勤務や育児休暇などの制度面もの整備を進め、現在では徳島と宇都宮のサテライトオフィス、そして在宅勤務を合わせると、半数以上の社員が日々リモートワーク環境で働いているという。
ビデオ会議とタスク管理ツールを中心にリモートワーク環境を構築
同社のこうした新しい働き方を実現する上で、ITの活用は不可欠だという。東京の本社オフィスとリモートサイトとの間はSkypeのビデオ会議でつながれており、常時メンバー間でコミュニケーションが取れるようになっている。またタスク管理ツールを使い、メンバー間で常にタスクの進捗状況が確認できるようになっている。
また、デザイナーが在宅勤務を行う際には、どうしても社内に置いてあるグラフィック性能に優れたマシンでないと作業ができない場合もある。その場合はオフィス内のマシンにリモートデスクトップ接続して作業を遠隔から行うという。社内のITインフラ管理を担当する遠山氏によれば、将来的にはこうした環境をさらに利便性の高いものにしていきたいと話す。
「リモートデスクトップ環境は、結局本社のオフィスでマシンの立ち上げやシャットダウンを誰かが行わなくてはいけません。これを仮想デスクトップのような仕組みにできれば、運用がかなり楽になるはずです。現状の仮想デスクトップは、グラフィック性能にどうしても制限があるが、これがクリアされればぜひ導入を検討したいと考えています」(遠山氏)
現在、同社にはサテライトオフィス勤務に関する問い合わせが多く寄せられているという。新しい働き方にいち早く着手し社員の働き方や生き方そのものが大きく変革したのと同時に、そのことがメディアなどで取り上げられたことで、新たな人材の確保という面でもメリットが得られるようになったと板林氏は述べる。
「ワークライフバランス向上やサテライトオフィスの取り組みが知られるようになったことで、中堅・ベテランクラスの優秀なエンジニアが人生の節目を迎えて、新たな働き方を模索する中で、弊社に応募してくれるケースが増えました。これは、当初在宅勤務やサテライトオフィスの取り組みを始めたころには想像も付かなかった効果です」(板林氏)
なお、同社では全ての社員に一律に在宅勤務やリモートワークを認めているわけではないという。在宅勤務やリモートワークでもワークとライフのバランスを取りながら、しっかりと成果を残せるであろうと認めた社員にのみ、そうした新しい働き方を認めているという。しかし、そうした社員に対しても勤務状況を一日中厳密に監視するようなことはしない。
「もちろん、リモートワークや在宅勤務の勤怠管理の仕組みはありますが、厳しい管理はせず、ある程度社員の自主性に任せ柔軟に運用しています。やはりベースにお互いの信頼関係がなければツールやルールだけ導入してもうまくいかないと思います。新しい働き方への取り組みには、経営トップの理念や理解、そして企業で働く人たちが信頼をベースに仕事を進めていける企業文化の成熟などが重要になると思います」(板林氏)
提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:TechTargetジャパン編集部
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