2015年7月4日土曜日

奈良・明日香村、観光客受け入れ強化 「民泊」柱に

2015/7/4 12:05

 石舞台や高松塚などの古墳で有名な奈良県明日香村が観光客の受け入れを強化している。開発規制で宿泊施設の建設が難しいため、民家への体験宿泊「民泊」を推進し、修学旅行など国内外からの宿泊客を受け入れる能力を高めた。経済効果が大きい、宿泊する観光客を村内でも増やしたいという導入5年目の取り組みは、人口の減少が進む中で「村を将来も維持できるのか」という危機感が原動力になった。
 2人乗りの小型電気自動車が、観光客を乗せて村内を小気味よく走る。昨秋から明日香村ではこんな光景が見られるようになった。民泊効果で観光客が増えたのを受け、村の地域振興公社がレンタルを始めた。
 民泊は旅館業法が定める一定の広さの客室などのない民家が、郷土料理を一緒に作るといった「宿泊体験」を有償で受け入れる。宿泊ビジネスを主とする民宿とは異なり、里山で農家が修学旅行生を受け入れるなど全国で活用が広がっている。
 明日香村の民泊は1泊8100円で、商工会や明日香村地域振興公社、飛鳥京観光協会などでつくる飛鳥ニューツーリズム協議会が窓口。修学旅行では1軒に3、4人が宿泊する場合が多い。
 民泊利用者の数は開始初年度の2011年度は76人(96泊)だったが、14年度は2266人(2920泊)と増加傾向が続いている。村には民宿が10軒ほどと数軒のペンションがあるだけで従来、まとまった数の宿泊客を受け入れるのは難しかった。
 修学旅行は台湾、オーストラリアなど海外の学校も多い。民泊事業を発案した明日香村商工会の下田正寿氏は「たった1泊や2泊でも、帰り際には住民と抱き合って泣き出す子もいる」という。
 当初は他人を泊めることに尻込みする家庭が多く、民泊に協力する民家は20軒しかなかった。セミナーを何度も開き「学校が求めているのは、もてなしではない。親戚の子どもが来たときのように手伝いもさせてほしい」などと説得。今は120軒が受け入れている。
 民泊開始のきっかけは、商工会の下田氏らが10年に参加した観光関連のセミナー。長野県飯田市が民泊で成功していると聞き、「明日香村にぴったり」と思いついた。
 民泊を始めた11年には飛鳥ニューツーリズム協議会が発足。奈良県立大と連携した歴史ツアーやサイクリングをはじめ、農業や伝統工芸、郷土料理作りなどの体験プログラムを用意し、地域ぐるみで支援体制を整えた。
 森川裕一村長は「法律で村の遺跡や町並みは守られてきたが、高齢化で30年もたてば、この歴史的な地域を守る人もいなくなってしまうという危機感があった」と言う。16年には国が進めてきたキトラ古墳周辺の公園化も終了、公開される。村はこうした追い風を生かし、地域の活性化に結びつけようとしている。
(奈良支局長 松田隆)

0 件のコメント: