2011年12月5日月曜日

山形自主避難母の会代表・中村美紀さん

朝日新聞デジタル版(2011年12月05日)より

 東京電力福島第一原発事故以降、福島県からの自主避難者が増え続け、県内にいる避難者の約9割を占める。多くが夫を福島に残している母子たちだ。9月に発足した「山形自主避難母の会」代表の中村美紀さんに、母子を取り巻く厳しい現状や取り組みを聞いた。∞ 福島から自主避難、母子の現状は 母親の孤立防ぐ対策必要
 ――山形自主避難母の会を立ち上げた理由は
 8月15日に避難してきた当初は、自主避難は自己責任なので騒ぎ立てない方がいいと思っていました。でもブログに現状を書いたら、連動するツイッターに約700件の投稿があって。避難と子育てに疲弊している深刻な声に、何とかしなければと思いました。周囲の母親に呼びかけ、9月22日に福島県に「要望」を出したのが始まりです。
 ――自主避難した母子たちの現状は
 20代~30代前半の若い母親が多く、経済的に余裕がありません。借り上げ住宅の家賃補助があっても、光熱費や食費など月10万円弱の生活費がかかり、乳児がいたり妊婦だったりするので、働くのも難しい。避難生活に疲れ、孤立する人も多いのです。
 ――住民票を地元に残している人が多いですね
 福島に夫がいる、移すと子どもの健康被害の調査案内などが届かなくなる恐れがある、という2点がが大きな理由です。今後の補償や調査が、福島に住民票があった日付で切られることもありえます。
 ■ 当然のこと要望
 ――住民票が避難先になくても乳幼児医療費助成の一時的な窓口負担をなくしてほしいと主張しています
 全国一律の予防接種も避難先で受けられないのはおかしい。要望に書いたのは、最低限の生活を守る当たり前のことだと思っています。
 ――ほかに母親たちにとって深刻なことは
 経済面のほかに、精神面が大きい。主人も実家もコミュニティーもなく、うつになる人もいる。母親が元気をなくせば、子どもの心の不安にも影響します。
 ――母親に必要なケアは
 「自分」の時間を持つこと。子どもといったん離れて喫茶店や美容院に行ったり、母親同士がランチをしたりできるよう、子どもをすぐに預かってもらえる実家のような場所もつくりたい。避難者の雇用にもつながればいいと思います。
 ――自主避難者が支援を求めることに批判の声もあります
 ブログには「避難できた人はまだいい」「これ以上避難するしないで風評被害をあおらないで」など、福島にいる母親の声も一部寄せられました。でも自主避難者の現状を発信することは、福島県に残る母親たちの苦悩を伝えることに必ずつながると思います。福島から避難したくてもできない事情の人も多いので、「週末避難」の検討など、避難者と福島県内の母親たちでつながりを持ちつつ、乗り切っていきたいです。
 ■ 家賃補助延長を
 ――山形県に望むことは
 支援の道筋を作っていただき、県民の方に心からお礼を申し上げます。今は借り上げ住宅の家賃補助制度をできるだけ延長してもらえるよう、福島県に働きかけてほしいです。年内までという話もあるが、それではあまりにも乱暴です。
 ――いま伝えたいことは
 避難者の中には苦しい人も多いけれど、受け止めてくれる人が近くにいるはず。みんなで手を携え、福島の親子が元気でいられるようつながっていきたいです。数年後、子どもにも何事もなく、大げさだったねと笑い合いたい。元の福島を取り戻したいと願っています。(聞き手=畑山敦子)
 ◎ 山形自主避難母の会
 山形県内にいる自主避難者約100人が登録。新潟市の避難者団体と連携し、福島県知事に要望書を提出したり、福島県議選の候補者に公開質問状を送ったりしてきた。主に(1)住民票を移していないことによる乳幼児医療費助成の一時的な窓口負担をなくし、避難先でも予防接種を受けられる措置(2)避難者専用の託児施設の設置や補助(3)福島から会いに来る家族向けの往復バスの整備(4)母親向けの雇用促進、などを求めている。
 なかむら・みき 福島市生まれ。夫と9歳、4歳、2歳の娘3人と福島県郡山市に住んでいたが、娘たちと山形市に避難してきた。夫は福島に残っている。郡山では料理教室など食に関わる仕事をし、今も月数回、通って続ける。自主避難者の交流が中心のNPO「りとる福島」の活動にも携わっている。中村さんのブログは( http://mikttymama.exblog.jp )。