2012年5月1日火曜日

焦点/被災地ツーリズム拡大/震災語り部、伝える真実

 

観光協会が仮設商店街に設けた施設で写真パネルなどを見学するツアー参加者=4月21日、宮城県南三陸町志津川
 「復興を応援したい」「経験を防災に生かせないか」。さまざまな思いを胸に、東日本大震災の被災地を訪れる人が増えている。ツアー参加者は今も深い爪痕を残す津波の猛威に圧倒され、住民の過酷な体験に涙する。宮城県南三陸町で中心となってツアーを受け入れている町観光協会は、共感の広がりが、繰り返し町を訪れるリピーター獲得にもつながると期待している。

◎参加者、ため息・涙・絶句/地元「学びの場として訪れて」

 「左手に見えるのが戸倉小です。子どもたちは近くの高台に逃げ、この世の地獄を見ながら寒い一夜を明かしました」
 町中心部が津波で壊滅的な被害を受けた南三陸町を4月21日、バスツアーが訪れた。鉄骨がむき出しとなった戸倉小体育館のそばで停車し、地元の震災語り部ガイドの菅原清香さん(60)が震災当日を振り返ると、車内からはため息が漏れた。
 ツアーはJTBグループが扱い、全国から個人旅行者10人が参加した。南三陸のほか、岩手・平泉や宮城・松島、山形・山寺を2泊3日で回るプラン。南三陸町でのプログラムには町観光協会が協力し、津波浸水地域を3時間かけてじっくりと回った。
 「あぁ…」。大破した船や、患者が大勢亡くなった病院を目の当たりにして言葉を失う参加者。「家族を亡くし、まだ家から一歩も出たくない人も大勢いる」。菅原さんが体験を交えながら話すと、涙ぐむ人もいた。
 被災地の住民感情に配慮し、仮設住宅の前ではバスから降りない。犠牲者が多数出た防災対策庁舎などを巡る際も、原則として車窓から見るにとどめる。一行は志津川地区の仮設商店街に移動して、被災の実情を伝えるスライドや写真パネルを見学した後、海産物などの買い物を楽しんだ。
 京都府宇治市から夫婦で訪れた建築士桂浩子さん(49)は「被災地を訪れるのは不謹慎でないかと迷いもあった。個人では不安なためツアーに参加した。買い物をして少しでも復興のお手伝いができればいい」と話した。
 友人3人と訪れた愛知県稲沢市の喫茶店経営水谷愛子さん(68)は「『百聞は一見にしかず』。帰ったら知人に実情を伝え、機会があればまた来たい」と語る。
 震災体験を話す語り部を務めるのは、町内の「ガイドサークル汐風」のメンバー。団体の視察なども含め依頼が相次いでおり、6月までは予約でいっぱいという。
 町観光協会の及川和人さん(31)は「震災で何を失い、何を学んだのか、ガイドが町民だから重みを伝えることができる。学びの場として訪れてほしい」と強調した。
 産業の柱だった観光の復活は町の復興に欠かせない。「今後は漁業体験などを組み合わせ、積極的な情報発信も検討する。ツアー客に繰り返し足を運んでもらうよう努力したい」と及川さん。将来の観光需要を支えるリピーター拡大に意欲を見せる。


 

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