2012年12月29日土曜日

福島原発周辺「緑のオーナー」に10年延長要求 林野庁

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緑のオーナー制度の仕組み
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原発周辺の「緑のオーナー制度」の状況

 【貞国聖子】国有林の育成とともに財産形成ができるとうたい林野庁が出資を募った「緑のオーナー制度」で、東京電力福島第一原発周辺の森林について同庁が満期を迎えた出資者に対し、10年間の契約延長を求めていることがわかった。事故の影響で伐採、販売の見通しが立たないことを理由に挙げているが、出資者からは「延長しても価格が下がるだけだ」と反発が出ている。
 出資者の福島県楢葉町は、契約延長で損害を被ったとして東電に賠償請求することも検討している。
 緑のオーナー制度は、スギなどの国有林に1口50万円(一部は25万円)を出資して国と共同所有し、20~30年ほど後に伐採、販売して得られた収益の分配を受ける仕組み。
 契約延長の対象になっているのは、原発事故で警戒区域と計画的避難区域になった地域(一部再編済み)の森林。林野庁の関東森林管理局によると、福島県の南相馬市、楢葉町、富岡町、浪江町、葛尾村、飯舘村の15カ所計約50ヘクタールで、出資者(オーナー)は楢葉、富岡両町と、個人延べ170人。出資額は計1億2375万円という。
 林野庁は震災後、このうち契約満期を迎えた24オーナーに10年延長を文書で求めた。いずれも同意したという。今後満期を迎えるほかのオーナーにも契約延長を順次求めていく。
 同庁によると、通常は満期になると、入札を経て伐採、販売するか、オーナーが希望すれば国が有識者でつくる委員会の意見を聞いて決めた額で買い取る。
 しかし、同庁は警戒区域などの森林については買い取らないことにした。理由として、現地調査ができないことや、民間による区域内の木材取引価格が定まらず買い取り額を算定できないことを挙げている。
 制度では1年ごとの延長もできるが、同庁は「見通しが示せないので、とりあえず10年間の延長をお願いせざるを得ない」と説明。10年延長した場合、契約途中の買い取りも難しいとしている。
 楢葉町は1985年に町内の5ヘクタールを約964万円で契約。来年3月に満期を迎える。同庁から10年延長を求められ、「事故の影響で現地調査に入れず、清算には1年以上かかる。入札してもいくらで取引されるかわからない」と説明を受けたという。同町は8月に警戒区域が解除されて立ち入りが可能になったが、同庁は木材取引価格を決められないことも理由にあげている。町は「延長しても価格は下がるだけで、本当は買い取ってほしいが、ほかに方法がない」と困惑する。
 富岡町は町内の3.2ヘクタールを約477万円で契約。満期を迎えるのは17年で、延長についてはまだ打診がないという。
     ◇
 緑のオーナー制度では、満期で受け取る額が出資額を下回る「元本割れ」が全国で問題となっている。
 林野庁は1984年度からオーナー(出資者)の募集を開始。しかし、木材価格の下落を背景に元本割れが起きた。問題が表面化した後の99年度から同庁は「対象森林が減少した」として募集を中止。99~06年度に満期を迎えた契約の9割以上が元本割れだったという。
 現在も多くの契約で元本割れしており、受取額が元本の4割以下にとどまるケースもある。
 募集が中止される前の98年度までに延べ約8万6千の個人・団体がオーナーになり、出資額は計約500億円。対象森林の面積は、東京ドーム約5340個分に当たる約2万5千ヘクタール。
 林野庁が募集の際に元本割れのリスクを知らせず契約を結ばせたことも問題になった。全国の出資者242人が09年以降、国に計約5億円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こし、裁判が続いている。

朝日新聞 2012年12月29日20時37分

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