地域の自然を体験してもらい、観光振興につなげる「エコツーリズム」。全国に先駆けて国のモデル事業に認定された飯能市で、エコツアーの参加者が急増している。都心からの近さが功を奏し、自然を目当てにした観光客がこの8年間で10倍に増えた。一方で、観光客を呼び込み続けるための課題も見えてきた。
 市がエコツーリズムに着目したのは10年前。市域の8割近くを森林が占め、入間川や高麗川の水資源も豊富な一方で、人口減少で空き家が増え、山林の荒廃も目立っていた。
 手つかずの自然を使って、都心の観光客を呼び込めないか――。飯能市は2004年度、環境省が進めるエコツーリズム推進モデル事業で全国13地域の一つに選ばれたのを機に、エコツアーの開発に力を入れ始めた。「渓流で釣り体験」「カヌーに乗って一日漁師体験」「古民家でフランス料理を味わう」「紅葉狩りとキノコ観察」など。参加者数を制限し、専門のガイドが同行して解説するのが定番コースだ。
 こうしたエコツアーの参加者は05年度はわずか481人だったが、09年に市の全体構想が環境省からエコツーリズム推進法に基づく全国第1号の認定を受けると年々知名度が上がり、13年度の参加者は4685人に。ツアー数も当初の10から185に増えた。
 エコツーリズム担当課長の大野悟さんは「北海道の知床や鹿児島の屋久島など、指定を受けた他の著名な観光地と違い、飯能は国立公園など規制の網がかかっていない。比較的自由にツアーが企画できたのが良かった」と明かす。
 課題もある。参加者が足りずツアーが成立しなかったり、採算に見合う人数が集まらず赤字になったりすることもあるのが悩みだ。富士山や知床などを擁するライバル観光地に比べれば、里山の自然や地域の伝統文化という「売り」は地味で小規模にも映る。
 ツアーガイドもこなす駿河台大学現代文化学部の平井純子准教授は「女性限定の登山ツアー『ヤマムスメが行く』など、ツアーによってはリピーターも増えている。他の観光地にないツアーを企画し、参加者の満足度をいかに上げるかが課題だ」と話す。
 エコツアーの問い合わせは市観光・エコツーリズム推進課(042・973・2123)。(戸谷明裕)