大阪や愛媛から吉野川市美郷地区に移り住んだ男4人が今月、大麻の栽培や所持の疑いで県警に逮捕された。栽培を目的に、人目につきにくい山村を選んだ可能性もあるといい、自治体などが進める移住者支援への影響が心配されている。
 県警によると、4人は昨年から今年にかけ、相次いで移住した。設計士(45)と麻製品を販売する会社の役員(51)が、知人の紹介などでそれぞれ空き家を借りて入居。その後、インターネットを通じて2人と知り合った20代の2人も移り住んだ。
 逮捕時には4人の家から計数キロの乾燥大麻が押収された。設計士の男は古民家の一室を大麻の乾燥専用に使い、畑で100本以上を栽培。畑は木や雑草に埋もれ、敷地外からは見えにくい状態だった。
 「人目につかない地方の一軒家は、大麻栽培の格好の標的になる」と組織犯罪対策課の村井巨志次席はいう。地区には駐在所が1カ所、最寄りの阿波吉野川署まで車で約40分。今回は、大麻草を見つけた近くの住民の通報で発覚したが「逮捕が遅れていれば、さらに拡大したかも知れない」。
 市南西部の美郷地区は斜面に集落が散在する、のどかな山村。早春には梅が咲き、夏はホタルが飛び交う。8月末現在の人口は1102人で、旧美郷村として発足した1955年の5分の1近くに減っている。高齢化率は約5割だ。
 市は急激な過疎化人口減少への対策として、様々な移住者支援に取り組む。家を借りたい人と貸したい人を結びつける「空き家バンク」制度を設け、空き店舗で開業する人には補助金を出している。
 「町を盛り上げてくれる移住者を歓迎してきただけに、この事件はショック」と市商工観光課の担当者。移住を望む人に疑いの目を向けるわけにもゆかず、今後どう対応すればいいのか、と困惑する。
 19日にあった県議会公安委員会では、松崎清治議員が県警に移住者対策を求めた。「もろ手を挙げて呼び込む姿勢には問題がある。市町村との連携を検討しては」。これに対し、県警は「薬物に関する啓発活動を地道に続けたい」と答えるにとどまった。
 県の「新過疎対策戦略会議」委員で、地域活性化に詳しい徳島大学の真田純子助教は「事件の影響で空き家を貸し渋る人が増えるのではないか」と指摘する。
 現在の空き家バンクの制度では、自治体は貸主に希望者を紹介するだけで、その後の契約は個人間で交わされる。「悪質な移住者だった場合、貸した人に責任が集中する。地域全体で移住者を受け入れ、見守る仕組みができるといい」(藤波優)